北海道札幌市南区で熊(エゾヒグマ)との共存を考える

札幌市、誰もが認める北の都で北海道最大の都市である。明治初期の開拓以来、急速に発展を続け、現在では日本有数の政令指定都市にまでなった。

札幌の中心部を歩いてみると、整備された巨大地下通路に、天を貫くような高層ビル、更に京の都を参考にしたといわれる整った街並みが延々と広がっている。

道内屈指の住みやすさを誇り、増加の一途をたどる人口は2008年の時点で190万人を超えた。まるで利便性という名の甘い香りに人々が吸い寄せられているようでもある。

しかし、そんな100万都市にはある裏の顔があり、断じて中心部に巣くう『すすきの交番』を横目に堂々と客引きを行う阿呆共などではない。

急速に発展する札幌市の裏の顔とは、市の南西部に位置する山岳地帯から人々の暮らしを牽制する熊である。加速度的な発展の裏側には必ず歪とも呼べる問題が生じるものであり、熊との共存問題も動物達の土地をも奪い成長し続けた札幌市が抱える歪のひとつと言えよう。

ここで札幌市周辺に生息する熊について確認しておくと、エゾヒグマと呼ばれる北海道にしか存在しない固有種である。

北海道の生態系の頂点に君臨すると言っても過言ではない生物で、体長2~3メートル、体重数百キロにもなる恵まれた体躯で北の大地を我が物顔で闊歩する姿に人々は畏怖の念を抱くことになるだろう。

蝦夷地の開拓はある意味、熊たちとの戦いでもあり、1915年に発生した道内最大級の獣害である三毛別のヒグマ事件などはまだまだ記憶に新しい。

道民にとって熊に対する知識は先人から脈々と受け継がれる暮らしの知恵であり、害獣指定され100年以上経つ今も熊と人との駆け引きが行われている様子を見ると、ある意味で人類の再現のない欲望に対しての自然からの啓示なのかもしれない。

さて筆者はそんな札幌の地を第二の故郷としているが、熊たちの根城でもある南西部の山岳地帯にほど近い場所に住む。南区などと呼ばれ、およそ100万都市とは思えない雄大な自然が広がっており、人々の住まいと熊の生息域に緩衝地帯が存在しない天険の地である。

そのためか札幌市の中でも特に熊被害が多く、市に上がってくる出没情報は絶え間ない。

北海道の害獣と言えば熊の名前が真っ先に挙がるだけあり、徹底駆除を訴える人達もいるようだが、個人的には緩んだ日常生活を引き締めてくれるピリリと辛いスパイスのような存在であると感じており、熊の存在を身近に感じると気が引き締まる思いだ。

そして、ここに筆者なりの道産子イズム、熊共存マニュアルを記す。

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熊の属性を知る

道民として生活をしていると、熊に関する知識は色々と耳に入ってきますが、その中で熊と出会った場合の対策法について議論されることも多いです。このような知識を鵜呑みにしていると万が一の際に自分自身を危険に晒してしまうかもしれません。

熊の対策で重要になってくるのが、熊の属性を知ることです。人間にも個性があるように熊にも個性があって、熊を動物の種類としてひとくくりにしてしまうと、手痛い洗礼を受ける事になるでしょう。

こういった情報には、それ単体で見れば正しい情報も多くありますが、その時々の状況を加味していない情報も多くありますので、熊の属性を知り適材適所で対処する柔軟性を持ち合わせておく必要があります。

具体例として、熊対策の一環として生息域に入る際には、鈴などの音が鳴るものを持ち歩いて熊に居場所を知らせるのが効果的と言われます。

しかし、これは人を恐れている熊に対しての有効な手段であって、人をエサと認識している熊に対しては、餌の場所を餌が自ら知らせる自殺行為になってしまいます。

人を恐れている(避けている)熊

人を恐れている熊に対しては音による対策が効果的なようで、動物は普段聴き慣れていない音に敏感に反応するようです。ラジオや鈴を鳴らしたり、笛を吹いたりして、熊に自分の存在をアピールすることで、熊側が察知して遭遇を避けてくれる可能性があります。

ラジオや音楽を鳴らす場合には、熊へのアピールも重要ですが、人の聴覚がその音で鈍り耳からの入ってくる周囲の変化に関する情報を見落としてしまう可能性もあります。

熊は突発的で聴き慣れない音に驚くといった情報もあり、持続的に音を鳴らすよりも、笛などで定期的に音を鳴らすのが有効だという意見もあるようです。

熊は夜間から早朝に活発な活動をするようですが、これには人を避けているからこそ、この時間帯に活動をするという理由もあるようで、夜間や早朝に活動する熊については、人を恐れる、避けるという知識を持った熊である可能性が高いようです。

不機嫌な熊

熊との邂逅は非常に危険です。突然の出来事に熊が興奮し攻撃的になってしまうこともありますし、熊は自分の領域を荒らされるのを嫌う生き物で、それがどんな対象であっても機嫌を損ねてしまう可能性が高いです。

自らの領域を荒らされた熊は、その不快感から先制攻撃を仕掛けてくることも多いようなので注意する必要があるでしょう。

このタイプの熊は侵入者の排除を目的として攻撃的になっている可能性が高く、人からの思わぬ反撃に怯むケースもあるようです。しかし、やはり人側から自分達の居場所を熊に知らせて、出会い頭の衝突を避けるべきでしょう。

若い熊

エゾヒグマは1歳から2歳くらいで親離れする生き物ですが、親離れしたばかりの若い熊は、まだまだ大人への仲間入りをしたばかりで十分な知識が備わっておりません。さらに、この年代の熊はとにかく好奇心が旺盛で、初めて見る人の生活圏に存在する様々な物への興味も示します。

親と行動しているうちは親に制されて人の生活圏に入ってくる可能性は低くなっていますが、独り立ちしたばかりの若熊は社会勉強の意味で人里に進入してしまうこともあるようです。

熊の学習機能は人が思っているより優れているようで、幾度か人の生活圏について知り、好奇心を満たしたり、人を危険な生き物だと判断すれば、再び人を避けて行動するようになります。

熊の属性について知る場合は、この親離れしたばかりの若熊の学習期間という点も踏まえておきたいところです。

母熊

こちらも非常に危険な属性で、母熊が子供を守るために先制攻撃を仕掛けてくる可能性が高いケースです。専門家の見解を調べてもコレという有効な対策法が示されていないことも多く、そのことからもかなり危険なケースであることが伺えます。

万が一、母熊と子熊の間に自分が存在してしまった場合は、母熊にとって子供を危険に侵す存在でしかないので、最悪のケースも覚悟しなければなりません。また、この場合は母親が子供を守るために人を襲うのですが、そこから派生して人を食料だと認識してしまうこともあるようです。

エゾヒグマの親離れは1歳から2歳くらいなので、特定の期間は親子熊に遭遇しないという確証もなく、このようなケースもあることを頭に入れておきたいものです。

人を食料と認識する熊

最も危険な属性の熊であるといえて、基本的に熊の生息域に入る場合には、このタイプの熊は駆除されていることを前提として行動します。熊は雑食性の非常に強い生き物で、一度食料と認識した物については決して忘れず人も例外ではありません。

また、独占欲が強く一度自分が手にれた物に対しての執着心がかなり強い生き物です。三毛別のヒグマ事件では、襲われた家族の亡骸を取り戻そうとした記録がありますが、それが熊の独占欲に火をつけた結果、さらに被害が拡大したとの見解もあるようです。

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一番安全な熊対策は生息域に近づかないことである

熊の居場所を奪って繁栄し続けた人間たちにできる熊への最大限の配慮は残された熊の生息域に近づかないことかもしれない。札幌市に報告されたエゾヒグマの出没情報や被害によく見受けられるのが、熊の生息域に侵入するケースで、山菜採り、登山、林間ツーリングなどもその一例だろう。

特に山菜採りは、山菜に夢中で周囲への配慮を怠っているところに、熊との出会い頭のトラブルといった事態も考えられるため非常に危険である。趣味嗜好は人それぞれの自由だが、熊の生息域に危険を冒して入っていくという自覚くらいは必要になってくるだろう。

新たに熊の行動圏を作らない

熊は人間の食べ物の味を一度覚えてしまうとその食べ物への依存度を強めてしまいます。そうなると、例え人家であっても食料を求めてやってきてしまいますので、熊の食べ物になるようなゴミの放置などには十分に注意する必要があるでしょう。対応を誤ると熊の行動圏を広めてしまうことになります。

熊への餌やりは言語道断

知床では観光客の熊への餌やりが問題になっており、たびたびニュースになります。熊への餌やりは、人への恐怖心を薄れさせる結果にも繋がりますし、人の食べ物に依存する熊を作り上げる可能性もあります。

近年、知床では新世代熊の台頭が問題視されておりますが、このような観光客の無責任な行動も無関係とはいえなさそうです。

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遭遇時の様子から読み取る熊の心理

万が一、熊と遭遇してしまった場合は、その熊が何を考えているのかを冷静に判断する必要もあります。熊の様子から心理状態がわかることもあります。

糞や足跡

熊の生息域に入る場合には糞や足跡などの情報も貴重です。熊が好んで生息する森林にはその他の生物も多数存在しておりますので、それらの生物と見分けがつくように事前に学んでおくとよいでしょう。

また、熊の糞は食べた物によって色や粘度が異なってきますので、個体によっても季節によっても違ってきます。

>>http://www.city.sapporo.jp/kurashi/animal/choju/kuma/konseki/index.html
(熊の足跡や糞について写真付きで解説している札幌市のサイト)

>>https://www.google.com/maps/d/viewer?mid=1KFgO-08qe4azD2bx968B7SM7nus
(googleマップを利用した札幌市ヒグマ出没情報)

鈴や笛

熊に遭遇しないために鈴の携帯が呼びかけられることは多いですが、こちらの鈴による対策は色々な属性の熊に効果があるようです。特に人を避けたり、怖がったりする熊には高い効果を発揮しますので、鈴や笛などの音のなる道具は必需品といえるかもしれません。

また、これらの道具を持っていない場合でも、私達には声という道具があり、定期的に熊に居場所を伝えるような声出しも有効だといえるでしょう。

しかし、注意しなければならないのが大声を出して熊を驚かしてしまう状況で、熊と対面した場合の悲鳴や大声が攻撃のきっかけになってしまう可能性もあるようです。

ただ、臨戦態勢に入った熊に対して怒鳴り声で一喝して、九死に一生を得るケースもあるようで、適材適所での使い分けが重要だといえるのではないでしょうか。

出没時期

熊の出没時期に特定の時期があれば、こちら側から熊を避けることができます。しかし、残念ながら熊の出没時期を特定するのは難しく、冬眠明けから冬眠前まで、どの時期においても遭遇する可能性が残ります。

さらに、穴持たずと呼ばれる冬眠できなかった熊、冬眠する必要のない熊なども稀に出現するようで、冬期間だから完全に安心というわけでもありません。

さらに、札幌市においては特に南区などが該当するのですが、果樹園をはじめとした農作物を栽培する農家も多く、農作物が実る時期を覚えた熊が8~9月くらいに集中的に出没する場合もあるようです。

このように人が自ら生活圏内での熊の行動を助長した結果、近年では札幌市でも全く隙のないエゾヒグマ活動ネットワークが完成しつつあるようです。

ブラフチャージ

ヒグマの威嚇行動の一種で、突進と後退を繰り返したり、突進とその他の威嚇行動を繰り返したりする様子で、この状態の熊を下手に刺激すると大惨事に繋がる可能性もあります。

様々な威嚇行動

熊が威嚇のために行う行動についても把握しておきたいところで、地面を叩いたり、木を叩いたり、喉を鳴らす、歯を鳴らす、息を強く吐くなど威嚇行動といっても様々です。

直立姿勢

これは熊が周囲の様子を伺う際に行う行動のようです。

動物の本能

突然の熊との対峙、一目散に逃げ出したくなりますが、この時に後ろを向いて逃げてしまうと動物の逃げる獲物を追いかける本能を刺激してしまい、どのような状態の熊に対しても危険な行動だといえます。

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絶体絶命!?熊に襲われた時…

札幌市周辺にいくら熊が多いといっても、熊は基本的には人を避けたり、恐れたりする生き物なので、対面すること自体が稀でしょう。ここからさらに不運が重なって、熊に襲い掛かられたとしたら…

対等に渡り合うには

人とエゾヒグマと対等に渡り合うためには、最低限ライフル銃を装備し、それも十分な距離を保つというのが最低ラインになってきます。

しかし、一般人が熊の生息域に入る場合にライフル銃を装備するのは非現実的で、このようなことからも人は熊に一矢報いることしかできないのです。

その結果、熊が怯んで運よく難を逃れるというのが熊襲撃トラブルからの生存ケースの典型的なパターンだといえるでしょう。

熊避けスプレー

痴漢対策や暴動鎮圧に催涙スプレーが使われることがありますが、対熊を想定したソレが熊避けスプレーとなっております。ベアスプレーなどともいわれており、刺激成分が配合されたスプレーとなっており、皮膚や粘膜に付着すると激しい痛みを感じさせることができます。

一時的に捕えた熊の仕置きなどにも使われることがあり、グリズリーやホッキョクグマといった大型の熊への使用を想定しておりますので、エゾヒグマにも効果を見込めるでしょう。

ただし、使用には細心の注意が必要で、瞬時に襲い掛かってくる熊に対して正しい状況判断をすることができるか、という問題点も残ります。

有効射程距離は数メートル程度になっており、風向きによっては使えない局面も出てくるでしょう。さらに、射程距離外から熊が瞬時に襲い掛かってくる可能性も考えられるようで、いくらベアスプレーが強烈だからといっても過信は禁物です。

鉈(なた)

銃刀法を加味した上で対熊用の現実的な武器を携帯するのならば鉈といわれております。熊に襲われ死に物狂いで鉈を振り回して熊を撃退したケースは意外にも多いようで、ある専門家は死んだふりをするよりは余程効果的と言っていました。

熊と格闘になった場合は、明らかに熊が人を襲う目的で攻撃してきていますので、そこまでに至った経緯はどうあれ、人も最大限の力を振り絞って立ち向かう必要があるのではないでしょうか。

よく鼻が急所などといわれますが、鼻をピンポイントに狙うのが難しい場合の方が多いかと思われますので、とにかく熊に反撃して痛みを感じさせることも重要のようです。

そのような意味では鉈のような道具がなければ、適度な大きさの石なども武器になるかもしれません。

スタンガン

ベアスプレーから痴漢撃退スプレーを連想して、ならば同じく痴漢撃退に使われるスタンガンはいかがなものか?と調べてみたのですが、どうやらあまり有効という情報は出てきませんでした。

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さながらニューカマー!?ゆとり熊の台頭!!

人間界でも『ゆとり世代』などと若い世代が揶揄され巷を賑わしていますが、どうやら熊たちの中にも新世代が出現しているようです。

これは従来までの対処法が通用しない熊などもこれに該当し、人を全く恐れない熊、人を全く避けない熊、従来までの撃退法が通用しない熊など熊対策に関わる人達の悩みの種でもあるようです。

また、新世代熊台頭の背景には1989年を境にして道内の熊に対する対応が駆除から保護へ一変した点などもあるのかもしれません。これら新世代熊の出現は、知床のルシャ地区をはじめとした特殊な環境下では顕著なようです。

しかし、こちらの新世代熊が札幌市にそのまま当てはまるかについては疑問を残すところで、専門家の見解が真っ二つに分かれることもあるようです。

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マタギの世界

少し話は変わりますが、熊の情報を調べていると『マタギ』という単語を目にすることがありました。どうやらマタギというのは伝統的な手法で狩りを行う狩人の一種で、彼らの狩りの対象には熊も含まれております。

偶然、1980年代のNHK黄金時代に作成されたNHK特集に『奥羽山系マタギの世界』という映像作品があり、非常に興味深く視聴させてもらいました。

特筆すべきは彼らの山歩き技術で、熟練のマタギともなれば山の地形に熟知し、獣道なる熊をはじめとした多くの動物の通り道を見分けることもできるようになるようです。

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あとがき

さて、私なりに北海道のエゾヒグマについて調べた情報をまとめてきましたが、私は決して熊の専門家ではありませんので、あくまでも私の備忘録というかたちで記事の掲載にいたりました。

そもそも、私は熊の生息域に極力入らないという最も安全な対策を重視しており、アウトドアな人間でもありませんので、熊との遭遇の可能性はかなり低いと思われます。

ただし、冒頭にも書いたとおり、熊が自然に与える緊張感は北海道の好きな部分でもあるので、共存の知恵としてこのようなまとめを作成いたしました。